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【特別エッセイ】新シーズン開幕に向けて ― 東京交響楽団の新時代を担う若きマエストロ、ロレンツォ・ヴィオッティ

― 新シーズン開幕に向けて ―
東京交響楽団の新時代を担う若きマエストロ、ロレンツォ・ヴィオッテ

文 山田治生(音楽評論家)

 ロレンツォ・ヴィオッティは、著名な指揮者であるマルチェッロ・ヴィオッティとフランス出身のヴァイオリニストである母の間に、1990年、スイスのローザンヌで生まれた。そして、フランスのリヨンで音楽を学んだ。しかし、2005年、父マルチェッロが亡くなってしまう。ロレンツォはまだ14歳だった。その後、ウィーンでゲオルク・マルクに指揮を学ぶ。ヴァイマールのリスト音楽院では二コラ・パスケに師事した。音楽一家に育ったロレンツォは、ロックやジャズにも親しみ、姉のマリーナ・ヴィオッティのバンドでドラマーも務めたという。2012年、早くもカダケス国際指揮者コンクールに優勝。そして、24歳の2014年7月に、体調不良のクシシュトフ・ウルバンスキの代役で、東京交響楽団を指揮した。これが、東響デビューであるどころか、プロの指揮者としてのデビューであった。ロレンツォ・ヴィオッティと東響との特別な関係はこのときに生まれたといえる。

 その後、ヴィオッティのキャリアはジャンプ・アップする。2015年にはザルツブルク音楽祭でネスレ・ヤング・コンダクター賞を受賞。2018年にはポルトガルのグルベンキアン管弦楽団の首席指揮者に就任した。2020年1月にスカラ座でグノーの「ロメオとジュリエット」を指揮。同年2月にはベルリン・フィルにデビューし、マーラーの交響曲第3番を振った。2024年6月にウィーン・フィルにデビュー。また、2021年から2025年までオランダ国立歌劇場の首席指揮者を務めた。


2023年9月23日 第714回定期演奏会より

 筆者がロレンツォ・ヴィオッティの指揮に初めて接したのは、2018年7月の新国立劇場の「トスカ」(オーケストラは東京フィル)であった。聴かせどころをじっくりと描き、響きや音色を味わう。そして進むべきところは先に行く。そういう指揮が印象に残っている。同月の東京フィルとのドビュッシー&ラヴェル・プログラムでの丁寧な音楽作りにまだ28歳とは思えない熟達がうかがえた。
 東響との共演では、まず、2019年1月のヴェルディの「レクイエム」を思い出す。冒頭の無音と有音の境目から立ち上がる合唱に、ただものではないと感じた。全体としては弱音や音色へのこだわりに感心した。2023年9月のベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とR.シュトラウスの「英雄の生涯」は、”英雄プログラム”ではあったが、ヴィオッティは力づくで強音を出したりはせず、オーケストラを実に美しく鳴らしていた。ベートーヴェンの「英雄」はスピーディでスマートでさえあった。

 マルチェッロ・ヴィオッティは晩年、ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場の音楽監督を務めるなど、オペラ指揮者として知られていたが、実際は、ドイツ音楽やフランス音楽も得意とし、近現代音楽にも取り組んだ幅広いレパートリーの持ち主であった。ロレンツォもオペラでの活躍が顕著であるが、実際は、多様なレパートリーを手掛けている。ロレンツォは、前述したように、イタリア系スイス人とフランス人の両親の間にスイスで生まれ、フランスで育ち、オーストリアやドイツで学んだバックグラウンドを持つ。学生時代には、ピアノ、声楽、指揮を学ぶだけでなく、打楽器奏者としても演奏活動を行う。そして、クラシックだけでなく、ロックやジャズにも取り組んだ。そういう幅広い音楽性は、現在の彼の指揮にも活かされている。東響とこれまで取り上げた作曲家だけでも、チャイコフスキー、ベートーヴェン、R.シュトラウス、ラヴェル、ヴェルディ、ブラームス(シェーンベルク)、ドヴォルザークなど実に多彩である。

 

 さて、東響音楽監督としての最初のシーズンにヴィオッティは、ベートーヴェンの交響曲第1番、同第9番、マーラーの交響曲第1番「巨人」、R.シュトラウスの「4つの最後の歌」、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」、ブラームスの交響曲第3番、ドヴォルザークの交響曲第7番、モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」、シューベルトの交響曲第2番、フランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」、ショスタコーヴィチの交響曲第10番など幅広いレパートリーを披露する。
 まずは、マーラーの青春の交響曲である「巨人」が本当に楽しみである。ベートーヴェンは、第3番と第4番に引き続いて、第1番もかなり期待できる。R.シュトラウスではオーケストラを美しく鳴らしてくれるだろう。フランスで育ったヴィオッティにとって、ラヴェルは得意とするレパートリー。「ダフニスとクロエ」に注目である。ウィーンゆかりのモーツァルト、シューベルト、ブラームスも楽しみ。ドヴォルザークの第7番はウィーン・フィル・デビューで指揮した曲。ロシア音楽は初共演でチャイコフスキーの交響曲第4番を取り上げたが、東響が日本初演を手掛け、歴代指揮者と取り組んできたショスタコーヴィチの第10番をどう指揮するのか興味津々である。そして、初シーズンの目玉はシュミットのオラトリオ「7つの封印の書」であろう。声楽入りの大作でヴィオッティの本領が発揮されるに違いない。

 世界最高峰のオーケストラや一流の歌劇場からオファーの絶えない若きマエストロが、東京交響楽団とどんなレパートリーでどんな演奏を繰り広げ、どんな時代を築いていくのか、楽しみでならない。

all photos by N. Ikegami

 

第740回 定期演奏会
2026年5月16日(土)18:00 サントリーホール

指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ

《音楽監督就任披露公演 第1弾》
ベートーヴェン:交響曲 第1番
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」

川崎定期演奏会 第105回
2026年5月23日(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

特別演奏会《ロレンツォ・ヴィオッティ 音楽監督就任披露》
5月24日(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
ソプラノ:マリーナ・レベカ
合唱:東響コーラス
合唱指揮:河原哲也

《音楽監督就任披露公演 第2弾》
R.シュトラウス:4つの最後の歌
ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」