東京交響楽団

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井上道義「鏡の眼」| 6/3東京オペラシティシリーズ 第133回

  6月3日、東京オペラシティシリーズ 第133回の指揮を務める井上道義さんより、コメントが到着しました。



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 「鏡の眼」は作曲してからもう20年以上が経つ。コンタクトレンズのメニコンの社長から眼科学会記念イベントに何か書いてくれと委嘱されたのがきっかけだ。それ以前にJAL主催「金閣寺音舞台」に僕は、野村萬斎、東儀秀樹、ニューヨークピアノアンサンブル、クロノスカルテットをまとめる演出を与えられ、その上それらをまとめあげる部分の音楽の作曲まで頼まれ、震えながらもやってみたら意外と良い結果が出たことから、僕はそのころには学生時代に挫折していた作曲を何がなんでもやってみようと思っていたので、その委嘱をひとつ返事で、しかし心底はプロ作曲家達に馬鹿にされるだろうとビビりながら作った曲だ。



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2021年6月、東京オペラシティシリーズ第121回より All photos by TSO



 内容は自分でもはっきり文章では表現できないが、「孤独感」と「寂寥感」、それに対してヒステリックに襲ってくる躁状態の酔っ払いのとっくに亡くなった父親の幻影、又は異和感ばかり感じる日本社会を引っ掛かりに、……鏡の向こうからから見つめる左右逆の指揮者という自分……の葛藤というべきもの。初演の時には「高齢出産の私……うれしはずかしだわ」みたいに羞恥心を強く感じたことを覚えています。



 私は指揮者なので生きる環境として、それぞれ深く長く付き合ってきた世界のクラシック作曲家たちの特許と言えるような方法が自分の曲に現れていることを恥ずかしく思いません。それは井上自身の生きている時代そのもので、日々、一緒に演奏する奏者との対話材料でもあるからです。そこではいわゆる日本=和風とか、伝統=邦楽のような、偽の祭儀用衣装は着てなかったと思います。



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 あの頃の私は、まだ本格的にショスタコーヴィチの世界に入る前で、京響、東響、新日とマーラーまみれになっていた頃です。その後、『メモリーコンクリート』という30分ほどの曲を書き、今年1月には父母の時代へのオマージュ・オペラ舞台作品をようやく仕上げ上演しました。とんでもなく牛歩な作曲家の自分ですが、早熟だった指揮者としての自分と対峙してかなり人々の心に衝撃をもたらす作品になったようですが、この鏡の眼こそがその原点なのです。どうか笑ってください。



井上道義



 



チラシ



東京オペラシティシリーズ 第133回

2023年6月3日(土)14:00開演(13:15開場)

東京オペラシティコンサートホール



指揮:井上道義、チェロ:上野通明



武満徹:3つの映画音楽より

第1曲 映画『ホゼー・トレス』から「訓練と休息の音楽」

第3曲 映画『他人の顔』から「ワルツ」

井上道義:交響詩「鏡の眼」

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 op.85

エルガー:南国にて op.50



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