
未来を奏でる三人のソリスト ― 注目のアーティストが川崎に集結
文 岩野裕一(音楽ジャーナリスト)
ヴァイオリン、チェロ、そしてピアノと、3人の若きソリストが競演する東京交響楽団3月の川崎定期。なかでもヴァイオリンの若尾圭良さんは、日本のオーケストラの定期公演に出演するのはこれが初めてというだけに、まだ日本の聴衆にはさほど知られていない存在だろう。
この1月に20歳になったばかりの若尾さんは、アメリカ生まれ。ボストン交響楽団の準首席オーボエ奏者・若尾圭介さんの愛娘であり、3歳でヴァイオリンを始めた。幼いときから、往年のボストン響の名コンサートマスターだった故ジョセフ・シルバースタインや、クリーヴランド弦楽四重奏団の創立メンバーだったドナルド・ワイラーシュタインといった名教師から、技術のみならず音楽の本質を学んだことが大きな成長の糧となる。
コロナ禍にあった2021年、若手の登竜門であるユーディ・メニューイン国際コンクールのジュニア部門で優勝を遂げ、同年スタルバーグ国際弦楽器コンクールでも優勝。この頃から日本での演奏活動も本格化させており、2023年には青山音楽新人賞を受賞している。
アメリカではすでに9歳からオーケストラと共演していたが、2024年9月、アンドリス・ネルソンス音楽監督が指揮するボストン響のシーズンオープニングガラコンサートに出演し、ラヴェルの「ツィガーヌ」を演奏して大きな話題を呼んだ。さらに2025年の夏には、タングルウッドのオザワホール前に故・小澤征爾の彫刻が置かれたが、彫刻の寄贈者である作曲家ジョン・ウィリアムズの指名で除幕式での記念演奏を行い、ヨー・ヨー・マ、エマニュエル・アックスなど居並ぶ音楽家たちを感動させたという。

2024年9月のボストン響ガラコンサートで 🄫 Michael Branchard
若尾圭良さんの素晴らしいところは、常に心の中に表現したい音楽があり、そのためにヴァイオリンが存在していることだ。彼女の演奏には、物語が聴こえてくるかのようなメッセージがある。プロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲第2番」は、ヴァイオリンのテクニックだけでは平板になってしまう作品だけに、若尾さんの音楽性を知るうえでうってつけの選曲だろう。
チェロの佐藤晴真さんは、このところ心境著しい日本の若手チェリストの中でも一頭地を抜く存在であり、2019年に最難関のミュンヘン国際コンクールで日本人として初優勝してからの活躍ぶりは目覚ましいものがある。名曲中の名曲、ドヴォルザークの「チェロ協奏曲」では圧倒的な名演を聴かせてくれることだろう。
また、ピアノの福間洸太朗さんは、すでにデビューから20年を経ており、若手という紹介は失礼かもしれないが、人気と実力を兼ね備え、知られざるレパートリーの紹介や情報発信にも力を入れているピアノの求道者だ。サン=サーンスの「ピアノ協奏曲第2番」の明るく華やかな曲想は、福間さんの魅力にふさわしい。
藤岡幸夫マエストロに率いられた3人の個性が光るコンサート、いまから待ち遠しい。



川崎定期演奏会を彩るソリストたち(ヴァイオリン:若尾圭良、チェロ:佐藤晴真、ピアノ:福間洸太朗)

●川崎定期演奏会 第104回
2026年3月14日(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:藤岡幸夫
ヴァイオリン:若尾圭良
チェロ:佐藤晴真
ピアノ:福間洸太朗
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第2番
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
サン=サーンス:ピアノ協奏曲 第5番「エジプト風」