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【特別エッセイ】大谷康子デビュー50周年。ボーダーレスな快作で辣腕を示す|12/13第737回 定期演奏会

第737回 定期演奏会
大谷康子デビュー50周年。ボーダーレスな快作で辣腕を示す

文 柴田克彦(音楽評論)

東京交響楽団の12月定期は、「大谷康子デビュー50周年記念」と銘打った公演。大谷は人気・実力ともに日本を代表するヴァイオリニストの一人で、深く温かい演奏は「歌うヴァイオリン」と称されている。2025年は彼女のデビュー50周年。1月の「記念特別コンサート」では、様々な形態の音楽を披露し、艶やかな音色と雄弁な表現で記憶に長くとどまるコンサートとなった。

 大谷は、1995年から21年間、東京交響楽団のコンサートマスター(&ソロ・コンサートマスター)を務め、2016年には名誉コンサートマスターの称号を授かった。いわば長年東響を支えた功労者にして、同楽団の”顔”ともいえる存在だった。今回は、そうした功績を記念しながら、現在及び未来へ向けた彼女の音楽を伝える意義深いコンサートである。

東響定期初登場となるフィンランド系英国人指揮者のロス・ジェイミー・コリンズ。

そこで大谷が弾くのはマルサリスのヴァイオリン協奏曲。ジャズとクラシックの二刀流で名を成すトランペット奏者&作曲家が2015年に書いた清新な作品だ。「ラプソディ」「ロンド・ブルレスケ」「ブルース」「フーテナニー」の4楽章から成る本作は、ジャズ、クラシック、ブルース、ラグタイム、フォークソング等、多様な音楽的要素を含んだボーダーレスな大曲。有名協奏曲ではなく、あえてこの曲を選んだ点に、25年に500回を迎えたテレビ番組『おんがく交差点』で世界各地の民族楽器の奏者たちと共演してきた経験や、「民族・言語・思想の壁を超えて未来に向かう」彼女の姿勢が反映されている。そもそも同曲は大谷の多彩な表現力とテクニックがフルに生きる作品だし、ましてバックは互いを知る古巣。ここは緊密な演奏で、作品の真価と自身の新境地を伝えてくれるに違いない。

 指揮はゆかりの深い秋山和慶(現永久名誉音楽監督)の予定だったが、1月に急逝したため、フィンランド系英国人指揮者のロス・ジェイミー・コリンズが定期初登場を果たす。25年2月に東響を振って日本にデビューした彼は、ボストン響等も指揮している新進気鋭の期待株。今回は、若い感性が生きるマルサリス作品の的確なサポートに加えて、後半のコープランドの交響曲第3番も楽しみだ。この曲は大戦終結直後の1946年に完成された壮麗かつ精妙な大編成作品。終楽章に自作の「市民のためのファンファーレ」を引用した内容は、戦後の希望や再生を想起させる。つまり今聴くに相応しい音楽なのだ。

 本公演では、大谷の妙技を堪能すると同時に、全編で“音楽の力”を実感したい。

 

第737回 定期演奏会
2025年11月15日(土)14:00 東京オペラシティコンサートホール

指揮:ロス・ジェイミー・コリンズ
ヴァイオリン:大谷康子

≪大谷康子 デビュー50周年記念≫
マルサリス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
コープランド:交響曲 第3番

【12月5日掲載】ぴあニュース:大谷康子デビュー50周年。ボーダーレスな快作で辣腕を示す