辻:当時、足の手術とその後の療養のために来日を見合わせたクシシュトフ・ウルバンスキ氏の代役を探すため、複数のマネジメント会社と連絡をとりつつ、Webなどで様々な指揮者の映像を探していました。そのとき、欄外にあった一つの動画が目に留まり、何気なくチェックしました。
辻:細身で青白い青年が振る《ラ・ヴァルス》。とても若いけれど、言葉にできないようなオーラを放っていたので『彼に代役を頼もう』と決めました。彼がイタリア・オペラの巨匠マルチェッロ・ヴィオッティの息子であることには、当初気が付きませんでした(笑)。初めてのプロオケということで、本人もかなり緊張した様子でしたね。ソリストはチェロの巨匠ゲリンガスでしたし(笑)。本人の希望で曲目も変更し、スメタナ「我が祖国」からモルダウだけを残して、代わりにチャイコフスキー:交響曲 第4番を追加することになりました。もちろん、この演奏会も素晴らしかったのですが、彼が凄いのはここからでした。
辻:リハーサルはかなり厳しいのですが、来日する度に毎回パワーアップしていて、段違いに良くなっていく。どの曲も、とても完成度が高いので『どこで振ったの?』と聞くと、さらっと『いや、今回初めて振るよ』と言ってのける。凄い指揮者になるぞと思っていたら、あっという間に世界中のオーケストラや歌劇場から声がかかる人気指揮者になりました。
2019年1月 第667回定期演奏会にて
2019年7月 東京オペラシティシリーズ第110回にて
辻:コロナ禍や、ヴィオッティ自身のオペラの仕事が重なり、なかなか来日が決まらなかったんです。ラインナップ発表のギリギリまで予定を調整して、ようやく叶った共演です。曲目は『古典か、もしくは英雄の生涯をメインに据えるのはどうか?』とWhatsAppで聞いてみたら、本人から電話がかかってきて『英雄の生涯で、前半はEroicaに』と。正直、ヘビーだな!と思いましたよ(笑)。でも、楽しいかなとも思って。
『顔色がすごく悪かっただろう? 盲腸の手術を受けて、退院直後だったんだ(笑)』
文/事務局
2023年9月23日(土・祝)18:00開演(17:15開場)
サントリーホール
指揮=ロレンツォ・ヴィオッティ
ベートーヴェン:交響曲 第3番 「英雄」
R.シュトラウス:交響詩 「英雄の生涯」