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エッセイ:即興的で自由度の高いベートーヴェン/演奏会プログラムSymphony11月号掲載

11月26、27日の定期演奏会で演奏する「ベートーヴェン:交響曲第2番」で遂に最終章を迎える、音楽監督ジョナサン・ノット×東響のベートーヴェン・チクルス。公演に先駆けて、プログラム冊子「Symphony11月号」に掲載されるエッセイを、WEBにて先行公開いたします。



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山田治生(音楽評論家)



 ジョナサン・ノットと東京交響楽団が2015年7月の交響曲第5番「運命」を皮切りに断続的に取り組んできたベートーヴェンの交響曲シリーズ。本来であれば、2020年4月の第2番で全曲完結の予定であったが、コロナ禍ゆえに、その演奏会は中止され、今回、あらためて第2番が取り上げられ、漸く、全曲演奏が完遂される。



 最初の交響曲第5番の演奏がまさに鮮烈であった。第5番は、「運命の動機」を積み重ねることによって構築されていく作品であるが、ノットは、単なる音の構築物にしてしまわない。「運命の動機」を音楽のキャラクターに合わせて変化させ(たとえば、8分休符を短めにすることによって焦燥感を出したり、逆に8分休符をたっぷりと取ることで音楽を堂々とさせたり)、柔軟にそして劇的に音楽を構築していった。交響曲第7番(2019年5月)でもそうだった。特徴的なリズムで構成されるこの作品でも、ノットは、同じ音型や休符を場面とともに変化し伸縮させ、決して杓子定規にはならない。交響曲第9番(2019年12月)も同様に、同じ音型(例えば、付点のリズム)が場面により伸縮し、変化する。巨大でありながら、繊細かつ動的。演奏自体が一つの生き物のように感じられた。



 つまり、ノットの演奏の特徴には、即興性があげられる。自由度が高く、おそらく演奏するたびに変化しているのだろうと思わせる、音楽の新鮮さのことである。そういう即興性は、楽団員にとってはアンサンブルを難しくするが、リスクをとってのスリルとサプライズこそがノットのベートーヴェンといえる。そのほか、第7番でのオーボエやクラリネットのソロの装飾的なフレーズにも、ノットの自由な音楽作りが表れていた。



 また、ノットのベートーヴェンには、速めのテンポ、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを左右に分ける対向配置、控えめなヴィブラートなど、古楽的なアプローチからの影響もみられる。東京交響楽団とのモーツァルトのダ・ポンテ三部作(「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」)の上演でも披露した俊敏な音楽の延長としてのベートーヴェンである。



ノットのベートーヴェン演奏は、重厚長大で固定化されたベートーヴェン像の対極にあるといえるであろう。



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2021年12月、特別演奏会《第九2021》より ⒸT.Tairadate



 今回は、シューマン=ベートーヴェン・プログラムであるが、もともと交響曲第2番は2020年4月に酒井健治のヴァイオリン協奏曲「G線上で」、ストラヴィンスキーの「カルタ遊び」とともに演奏される予定であった。そのように、これまで、ノットは、東響とのコンサートで、ベートーヴェンの交響曲と現代の作品とを並べたプログラムを組むことによって、ベートーヴェンの現代性を際立たせてきた。つまり、よくあるベートーヴェンの偉大な交響曲に20世紀の音楽を添えるというのではなく、20世紀音楽と同じ土俵の上にベートーヴェンをのせ、ベートーヴェンが今でも本当に面白いのか、あるいは現代の音楽がベートーヴェンに劣らず面白いのか、を問うてきたように思われる。



 たとえば、第7番とはブーレーズ作品とヤン・ロビン作品を、第8番とは「タクシードライバー」とバートウィッスルの作品とを並置した。第6番「田園」では、アイヴスとヴィラ=ロボスの作品で、19世紀と20世紀、田舎と都会を対比させた。また、ノットは自身の十八番であるリゲティの作品とベートーヴェンの交響曲とを組み合わせた。リゲティのピアノ協奏曲とベートーヴェンの交響曲第1番、「ホルンと室内アンサンブルのための《ハンブルク協奏曲》」と交響曲第3番「英雄」、である。そのほか、ノットは、ベートーヴェンと20世紀の古典というべきストラヴィンスキーを並べた。第4番とストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲、第5番と「管楽器のための交響曲」などである。



 



 ノットは、東響とのベートーヴェンの交響曲シリーズで、たとえば、第3番「英雄」ではとてもアグレッシヴな演奏を繰り広げた一方で、第6番「田園」では常に柔らかい音で描き、鋭い音を使われなかった(「嵐」の場面もそんなに刺激的にはしなかった)。そのように、ノットは、作品のキャラクターによって表現を大きく変化させる。



 第2番は若きベートーヴェンの情熱がストレートに表れた作品である。難聴が悪化した時期に書かれたが、曲には躍動感があふれている。ベートーヴェンが彼の交響曲で初めて「メヌエット」ではなく「スケルツォ」を用い、彼らしさが確立された交響曲といえるであろう。ノットが、最後にとっておいた第2番をどう演奏するのか、まさに興味津々である。



 



チラシ



第706回 定期演奏会

2022年11月26日(土)18:00開演(17:15開場)

サントリーホール



川崎定期演奏会 第89回

2022年11月27日(日)14:00開演(13:15開場)

ミューザ川崎シンフォニーホール



指揮=ジョナサン・ノット

ヴァイオリン=アンティエ・ヴァイトハース



シューマン:「マンフレッド」序曲

シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調

ベートーヴェン:交響曲 第2番 ニ長調



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