正指揮者就任を記念し、3月18日の読売新聞文化面で掲載された原田慶太楼のインタビュー記事を公式サイトにて公開致します。就任記念コンサートの前に、是非ご覧ください。
会話しながら 東響と音作り|来月正指揮者就任 原田慶太楼
まず若手作曲家育成
東京交響楽団の正指揮者に来月就任する原田慶太楼は、日米を往来する36歳。持ち前のフランクさと発信カで、音楽界に一石を投じる。
いつも屈託がない。「日本で指揮者が成功するにはある程度『これをクリアしなきゃ』っていう条件があるでしょう。ブザンソン国際コンクールで優勝、とか。でもそれが全部ない。ここまでコンクールの経歴がない人間も珍しいと思う」。米国のオーケストラなどでキャリアを重ね、現在は米サバンナ・フィルハーモニックの音楽・芸術監督を諮める。日本のオーケストラのポストは海外での実績をひっさげて「50歳か60歳くらいになったら」と考えていた。
2016年に初めて東響を指揮し、「僕という人間を受け入れてくれるオーケストラだ」と感じた。客演を重ね、昨年は無観客ネット配信の公演も指揮した。正指揮者就任で、「家族と一緒に鍋を作るようにおいしいネタを出し合い、『シメは何にしようか』みたいな会話をしながら音楽作りができる。一つ一つのプログラムに意味を込められる」と喜ぶ。
東響で「日本の音楽界に欠けているものを埋めていきたい」という。手始めが若手作曲家育成。サントリーホールと共同で、子供たちから公募した旋律をウェブで公開し、それらを用いた新曲を募って1曲を選ぶ。選んだ曲は12月の初演まで、作曲家と一緒に磨き上げ、宣伝も展開する。「目的は世界初演でなく、その後の曲の生命。何度も演奏される魅力がある曲を一緒に作り、歴史に残したい」
コロナ下、視聴者から質問を募りながら、音楽家との対談を連日ネット配信したほか、SNSで積極的な発信も続ける。「今まではアーティストはアーティスト、お客さんはお客さんだった。配信やSNSでお客さんと一緒に作り上げることができるようになったのは、コロナで出てきた素晴らしいプレゼントだと思う」
4月17日にサントリーホールで開かれる就任披露公演のプログラムは、自らのルーツを軸に、幾重にも「つながり」を絡ませた。
服部百音をバイオリン独奏に迎えるバーンスタイン「セレナード」は、作曲家36歳の年に書かれた。「作曲家が自分と同じ年月を生きた体験を分かち合いたい」。何よりバーンスタインの「ウェストサイド物語」に感激してサックスを始め、渡米して芸術高校で指揮を始めた原点がある。
米国で最初に演奏した吹奏楽の音楽が現代の米国人作曲家ティケリの曲だった。だから今回、ティケリの「ブルーシェイズ」も取り上げる。
米国の後、ロシアで指揮を学んだ経験は、ショスタコービッチ「交響曲第10番」に象徴させる。旧ソ連の巨匠の作品からスターリンのイメージにも重ねられる大曲を選んだのは「セレナード」と同時期の作品だから。「プログラムにしつこく意味を込める」のが信条だ。
(2021年3月18日 読売新聞 夕刊文化面 記者:清岡央)
※本記事は、読売新聞社の記事利用承諾手続きを経て、期間限定で掲載しています。
Photo by T.Tairadate
・第689回 定期演奏会
~原田慶太楼 東京交響楽団 正指揮者就任記念コンサート~
2021年4月17日(土)18時開演 サントリーホール
指揮=原田慶太楼
ヴァイオリン=服部百音
ティケリ:ブルーシェイズ
バーンスタイン:セレナード
ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ホ短調 op.93