2021年2月18日発行「音楽の友」2021年4月号 Peapleにて、次期正指揮者 原田慶太楼のインタビューが掲載されました。
“新しい視点からオーケストラに刺激を与えたい”
アメリカと日本を中心に世界的な活躍を続ける指揮者の原田慶太楼が4月から東京交響楽団の正指揮者に就任する。4月17日、サントリーホールでの東京交響楽団第689回定期演奏会が正指揮者就任記念コンサートとなるが、そのプログラミングが典味深い。アメリカの作曲家フランク・ティケリ(1958~)の〈ブルーシェイズ〉(吹奏楽)に始まり、バーンスタイン《セレナード》(ヴァイオリン独奏は服部百音)、そしてショスタコーヴィチ「交響曲第10番」と統く。原田にその意図を聞いた。
「コンサートのプログラムを決めるときに僕が大事にしていることは、そのプログラム全体を通して、何か隠されたつながりのようなものを聴き手に意識してもらうこと、あるいはその繋がりを探ってもらえるような好奇心を誘うものであることです。同時に、あまり知られていない作品も取り上げたいし、僕自身が深く関わりのある作品も選びたい。そういうさまざまな側面を考えて、今回のプログラムを決めました」と原田。
ティケリの作品は日本でも吹奏楽ブームの中でよく知られるものとなっているようだが、プロフェッショナルのオーケストラの演奏会でそれが取り上げられることは稀だろう。
「実はティケリの作品は、僕が指揮者として初めて指揮した作品です。とてもジャジーな雰囲気も持つ作品で、より多くのかたに知ってほしいと思って選びました。バーンスタイン《セレナード》は日本でもよく知られた作品だと思いますが、実際に演奏に接する機会はそれほど多くないでしょう。実はヴァイオリンの百音さんとこの曲を関西で共演したことがあって、せっかくこんなに難しい曲を覚えてくれたのだから、また共演したいと考えていました」
バーンスタイン《セレナード》は古代ギリシャの哲学者プラトンの『饗宴』にアイディアを得た、ヴァイオリン独奏を中心に展開されるオーケストラ曲だが、全5楽章にはそれぞれ古代ギリシャの哲学者・文人の名前が付けられている。バーンスタインらしい知的な関心を示す傑作である。
「ちょうど同じ頃、当時のソヴィエト連邦ではスターリンが死去し、ショスタコーヴィチは温めていた『交響曲第10番』をようやく発表することができました。この作品には、スターリンその人とスターリン時代を描いた部分があり、それはバーンスタインが古代ギリシャの哲学者たち、つまり人間を描いたという共通する要素があります。また僕自身がロシアで指揮を学んだという経験もあり、それもこの曲を選んだ大きな要素の一つです」
東京交響楽団でのこれからの活動について、原田はどんな抱負を持っているのだろうか。
「ジョナサン・ノットのもとでオーケストラは大きな変貌を遂げていると思いますが、これまでにもユベール・スダーンの時代があり、また秋山和慶さんや飯森範親さんとも、それぞれの指揮者にあわせた多彩な個性を発揮してきたと思います。その柔軟性を大事にしながら、僕は新しい視点からオーケストラに刺激を与えられたら良いなと思っています」
東京交響楽団と原田のコラボレーションに期待が高まる。
取材・文=片桐卓也 (「音楽の友」2021年3月号「People」より転載)
Photo by T.Tairadate