作曲家 天野正道が語る、《ウナ・オベルテューラ・エスパニョーラ・ファルサ「エル・ハルディン・デ・ロス・レクエルドス」》
作曲家:天野正道インタビュー | 川崎定期演奏会 第74回 特集
―天野さんの吹奏楽との出会いについて教えてください。
「中学2年生の時にトロンボーンを担当したのが最初です。コンクールの本番でスライドを飛ばして、指揮の先生の前まで取りに行ってクビになりました。その後テナー・サクソフォンを担当し、当然の如くメタルマウスピースを買い込んでJazzにのめり込み、「ウルサイ」とクビに。フルートならジャマにならないだろうと回されましたが、ピッコロという最高の武器を得て音量MAXでバンドぶち壊し、でした」
―吹奏楽曲の他にも、ゲーム音楽や映画音楽、現代音楽から演歌まで、数多くの楽曲を手掛けていらっしゃいますね。
「拙曲に《交響組曲GR(ワルシャワフィルで録音したOVAジャイアントロボ)》や、《交響組曲BR(故深作欣二監督の映画「バトルロワイアル」)というのがありまして、この吹奏楽版が当時コンクールで何故か(?)数多くの団体に演奏されていました。その流れで、曲名に「JR」を入れて欲しい、とJR東日本東北吹奏楽団の委嘱を受け作曲したのが、《ウナ・オベルテューラ・エスパニョーラ・ファルサ『エル・ハルディン・デ・ロス・レクエルドス』》です」
―委嘱にはいくつか条件があったとお伺いしております。
「1つ目は、先ほどの件(曲名に「JR」を入れること)。なので、邦訳「思い出の庭」に意味は全くありません。
2つめは、演奏会にいらっしゃるお客様が何処かで聴いた事のある感じのする、スペイン風のパロディ曲にして欲しい、ということでした。ちゃんとしたエスパニョールテイストの曲を作ることは当時の私には不可能だったので、「似非スペイン風序曲JR」となった訳です。
3つめはトランペットのハイトーンをフィチュアーして欲しい、ということでした。
作曲をするのになにより大切なのは、“音を楽しむ”ことです。たとえその内容がどんなに悲痛な音楽を生み出さなければならないときでも、それぞれの音たちが紡いでいく流れを楽しむというか、愛でることが出来るよう構築していきます。商業音楽を多く手がけていると、描写的、標題的発想がどうしても必要になりますが、やはり『絶対音楽』が一番ですね。
作曲をする上で、管弦楽曲と吹奏楽曲の違いは基本的にはありません。音楽表現のベクトルが少し違うかな、というくらい。今回の『エル・ハルディン・デ・ロス・レクエルドス』は自作曲を管弦楽版に編曲したわけですが、これに関しては、長年やってきた商業音楽病でしょうか、既成曲と自作曲の区別も特にありませんでした。エリックさんにソロをお願いすることになったので、彼の魅力を十分に発揮できるように意識し、東京交響楽団の皆さんにはストレス無く楽しんで演奏して頂けるように考慮しました。ストレスに関しては“?”ですが……」
―初演に立ち会われる際の心境を教えてください。
「我々作曲家は、自分で指揮する時以外は本番では何も出来ません。ただただ祈っているだけです。でも、音が出た瞬間、至福の時が始まります。エリック・ミヤシロさんには、これまで数多くの拙曲を演奏、共演させて頂きました。同じ時代に生きていられることをとても嬉しく思います。東京交響楽団さんとも、度々レコーディングでも御世話になりました。一番嬉しいのは私が東京交響楽団の演奏を聴き始めた約40年前から、ずっと日本の、世界のオーケストラシーンを牽引して下さっていることです」
―最後に、ご来場のお客様へのメッセージをお願いいたします。
「本作は、何しろエスパニョールテイストのパロディ曲。元ネタを連想してニヤっと笑って下さい。それと同時にエリックさんの素晴らしいソロと東京交響楽団のアンサンブル、そしてそれを紡ぎ出すマエストロ、ヘルムート・ライヒェル・シルヴァ氏の音楽を、是非お楽しみ下さいませ」
インタビュー:事務局/演奏会冊子「Symphony」2020年1月2月合併号より
天野正道(あまの まさみち): 映像音楽、現代音楽、歌謡曲、Jazz、演歌から吹奏楽まで節操無く書く作曲家、指揮者。何故か国立音楽大学作曲科首席卒業、同大学院を首席修了しており、第23回、24回日本アカデミー賞優秀賞などを受賞している。