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【特別エッセイ】東京交響楽団とシューベルト|9/13東京オペラシティシリーズ

文 奥田佳道(音楽評論家)

 選曲からして魅せたベートーヴェンの交響曲第1番とマーラーの交響曲第1番(5月、サントリーホールでの第740回定期演奏会)を通じ、ロレンツォ・ヴィオッティと東京交響楽団は新たな響きの層や広がりを模索。近未来に達するであろう巧緻なアンサンブルを予告した。創立80年をことほぐ東響と第4代音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティへの関心は高まるばかりである。

 5月定期後の小宴でビュッフェのトレーを見つめていたマエストロに、これまでにウィーン、チューリヒで聴いたプログラム、演目を挙げながら声をかけた。立ち話の内容を明らかにしても、音楽、演奏家、聴きての環を愛でるジェントルな彼は怒らないだろう。
「ありがとう。ベートーヴェンの第3楽章から第4楽章をアタッカで続け、第4楽章最初のG(ソ)音をはっきりさせたのは、音楽がそれを求めている、と考えたからです(と言ってスケルツォからフィナーレへの転換を同じテンポで歌い出す)。ベートーヴェンはあの場面でジャケットを脱ぎ、アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェで駆け出すのです。
(2026年)6月のツェムリンスキーの交響詩「人魚姫」(ウィーン・フィル定期)にも来てくれるのですか。ウィーンではプッチーニの三部作も指揮します。」
 9月の東京オペラシティシリーズでメインを飾るシューベルトの交響曲第2番への筆者の個人的な想いを伝え、美しい交響曲第2番はクラウディオ・アバド、第3番はカルロス・クライバーの愛奏曲でしたね、も立ち話のなかで出たが、小宴でのマエストロとの会話はそこまで。

 シューベルトと東響と言えば、秋山和慶を引き継いで第2代音楽監督に迎えられた硬派熱血漢、桂冠指揮者のユベール・スダーンだ。2008年度のシューベルト・チクルスはディスクでも配信でも楽しめる。指揮棒、指揮台を使わずに、フレーズやハーモニーの変幻を幾分前かがみで指示し続ける指揮姿が目に浮かぶ。音楽の句読点に厳しく、自分仕様のパート譜持参で整ったアンサンブルを希求するスダーンは今も東響の大切な指揮者だが、とにかくこの人はハイドン、シューベルト、シューマン、ブルックナー、それにマーラーの編曲にうるさい。もとい、一家言ある。音楽監督最後の定期演奏会(2014年3月29日)もシューベルトの交響曲第2番だった。ちなみに、その一週間前のオペラシティシリーズ(2014年3月22日)は最初と最後の交響曲を含むオール・ハイドン・プログラムだった。

「ハイドン、モーツァルト、シューベルトでいい演奏をするシンフォニー・オーケストラ。それがいいオーケストラです。シューマン、メンデルスゾーン、ブルックナーでも同じことがいえます。たくさんの音符を音にしたところで音楽にはなりません」
 スダーンの好きな言葉を久しぶりに引っ張り出してみた。

明晰なタクトさばきの秋山和慶とともにオーケストラの基本形を創り上げ、近現代のオペラ、大曲、超難曲に挑んだ東響は、中欧の響きと小気味いいアンサンブルに「こだわる」スダーンと表層的な喝采を博しにくいウィーン古典派、ドイツ・ロマン派に取り組み、クラシカルな領域でも一定の成果を挙げた。そして第3代音楽監督ジョナサン・ノットの、コンサートの最中でも新たな解釈やアイディアがひらめいたかのような音楽づくりを体感。ノット=東響はラフマニノフの交響曲第2番ほかで魔境を紡ぐ。レパートリーによっては、音符と精妙かつ自在に戯れた。表現が音楽評論家的過ぎるだろうか。

 われらがロレンツォ・ヴィオッティも奇をてらわない。この夏は、作曲家の絆ばかりでなく、1880年代のウィーン楽友協会をも映し出すブラームスの交響曲第3番とドヴォルザークの交響曲第7番を披露した(2026年7月定期、新潟定期)。色彩と音響のコントラストばかりでなく、オーケストラ内のソリスト紹介も意図したドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、リムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」、それに交響組曲「シェエラザード」も喝采を博す(フェスタサマーミューザ開幕)。
 新音楽監督の選曲は一見オーソドックスだが、東響に何が必要か、そのために何を演奏すべきか、次にどんな景色、音色を共有するか。そこまで考えてプログラムを提出しているのではないか。
 東響をさらに素敵なオーケストラにしたい。
 となれば、スダーンの言葉ではないが、最初から最後まで音符が多く、ごまかしの利かないシューベルトだ。果てしなく繰り返されるフレーズに奇蹟の歌の調べ、大胆な転調。すべてが魅力となるシューベルトの交響曲第2番に行きつく。古典の様式美と驚くべきスケール感をあわせもつシューベルト若き日の逸品である。アンサンブル形成に欠かせないこのシンフォニーは、シューベルトに手を差し伸べたウィーン音楽界の名士オットー・ハトヴィヒ邸のオーケストラにより初演されたか。

1980年代中葉、ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任したクラウディオ・アバド(1933~2014)が若手中心のヨーロッパ室内管弦楽団とシューベルトの交響曲全曲録音を開始した際、ふだんは寡黙なアバドが、ウィーンのメディア、そしてリハーサル見学を許された私たち学生に、シューベルトの初期交響曲の重要性を力説していたことを鮮やかに思い出す。

よそ様のお話が多くなってしまった。ロレンツォ・ヴィオッティと東京交響楽団が初年度に用意したとっておきのウィーン・プログラムを満喫しつつ、現代の名コンビ醸成に想いを寄せたいものである。

2026年5月音楽監督就任披露公演、終演後に話すユベール・スダーンとロレンツォ・ヴィオッティ。

東京オペラシティシリーズ第152回
2026年09月13日(日) 14:00  東京オペラシティコンサートホール

指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
スッペ:喜歌劇「詩人と農夫」から序曲
モーツァルト:交響曲 第38番 ニ長調 K.504「プラハ」
シューベルト:交響曲 第2番 変ロ長調 D125

[9/13]公演詳細