東京交響楽団

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【特別エッセイ】ヴァンスカの説得力|6/13定期演奏会

フィンランドの名匠と東響によるベートーヴェンとラフマニノフへの期待

文 那須田務(音楽評論家)

 6月最初の定期に登場するのはフィンランドの指揮者オスモ・ヴァンスカ、東響とは昨年3月以来2度目の共演だ。
ヴァンスカは、近年マケラやペルトコフスキら若きスターを世に送り出している指揮者大国フィンランドで、エサ=ペッカ・サロネンとともに1950年代生まれの世代を代表する名匠だ。マケラやサロネンらと同様、シベリウス・アカデミーで名伯楽パヌラに師事した。ちなみに先のペルトコフスキが最も大切にしているパヌラの教えはオーケストラを助けろ、邪魔をするな、徹底的に総譜を読み込めというもので(『音楽の友』2026年1月号取材・文 山崎浩太郎氏)、後述するようにこれらはヴァンスカの指揮に通底するものだ。
その後29歳の時にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝、その3年後の1985年にフィンランドのラハティ交響楽団の首席客演指揮者(88年に首席指揮者。2008年まで)となって、欧州一流のオーケストラに仕立て上げた。彼らの名声を高めたのは、BI Sレーベルからリリースされたシベリウスの交響曲全曲録音でヴァンスカ&ラハティ響は、初来日を果たした1999年にも全曲演奏会を行なって大いに話題になった。

©Joel Larson

 このようにヴァンスカはシベリウスの優れた解釈者として知られるが、それだけではない。2003年から2022年まで首席指揮者を務めたアメリカのミネソタ交響楽団とベートーヴェンの交響曲やマーラーの交響曲全曲録音を行なっているし、BBCスコティッシュ交響楽団とアムランと共演したコルンゴルトの左手のためのピアノ協奏曲など注目すべきディスクがあり、ベートーヴェンから現代音楽までレパートリーは広い。

 そんなヴァンスカの魅力は、先のパヌラの教え通りの徹底したスコアの読み込みに裏打ちされた確かな解釈と細部の丁寧な仕上がり、楽団員の一人一人の気持ちを掻き立てて一つの方向にもっていく力量にあり、聴後に心の中で作品の全体像がくっきり姿を現わすような、あるいはすとんと腑に落ちるような強い説得力がある。それは昨年3月の東響の定期でも大いに発揮されていた。プログラムはニールセンの序曲《ヘリオス》、イスラエル出身の中堅バルナタンをソリストに迎えたベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、そしてプロコフィエフの交響曲第5番。ニールセンの序曲の冒頭は「ヴァンスカのピアニシモ」と称される美しい弱音をさらに一回り抑えた「ppp」(まさにスコア通り!)で太陽が昇る様子が鮮やかに表現されていたし、ベートーヴェンの協奏曲ではソリストとともに、同曲の古典性と革新性を十全に引き出していた。プロコフィエフの交響曲は各楽器のフレーズの造形が美しく、とりわけ弦が見事に揃う。第2楽章は軽やかなアーティキュレーションが鋭い諧謔の精神を感じさせ、第3楽章は東響の弦の艶やかなサウンドと憧れに満ちた歌が快く、終楽章は淡い色彩の序奏から主部への移行が鮮やか。きめ濃やかな気配りで細部を扱いつつ全体の構造が明快に示された秀演だった。この公演に参加した多くの楽団員が「リハーサルから本番まで幸せな時間がつづいた。非常に厳しい人だが、必要なことをしっかりと伝え示してくれるので、何度も演奏している曲でも様々な発見があった」と話していたという。

2025年3月29日 第728回定期演奏会(サントリホール)より  ©T.Tairadate


 プログラムは交響曲の名作2曲、ベートーヴェンの8番とラフマニノフの2番である。前者は一見古典的な形式のコンパクトな作りながらリズムの扱いなど随所に革新的なところがあり、ぎゅっと中身が詰まった密度の高い作品。ヴァンスカは細部にこだわるが、音楽の流れは自然だ。ダイナミックな音楽の推進力と躍動感あふれる演奏が聴けるに違いない。室内楽的な各楽器の掛け合いが魅力的な第2楽章や牧歌的な第3楽章も楽しみだ。終楽章はリズムや強弱の振幅の大きさが面白い。ここでもヴァンスカのデュナーミク(強弱)の手腕が発揮される。先のミネソタ交響楽団との録音は、大自然に囲まれたアメリカのオーケストラらしく野性的で素朴な味わいだが、都会的に洗練された東響とはどうだろう。

 ラフマニノフの交響曲第2番は1906年から7年、作曲家が33歳から34歳にかけて作曲された美しいメロディが連綿と流れる人気曲だが、ヴァンスカは北国出身の音楽家である。お涙ちょうだい的なセンチメンタリズムに陥ることはないだろう。筆者が注目しているのは、第3楽章冒頭のクラリネットのソロ。ヴァンスカは指揮者になる以前はヘルシンキ・フィルのクラリネット奏者だったから楽器も吹き手の心も知り尽くしている(東響の首席奏者に期待)。これまでの楽章の動機を盛り込んだ華麗な終楽章も、スケールの大きな感動的な演奏となることだろう。

 

 

第741回定期演奏会
2026年6月13日(土)18:00 サントリーホール

指揮:オスモ・ヴァンスカ

ベートーヴェン:交響曲 第8番 ヘ長調 op.93
ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 op.27


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