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【座談会】原田慶太楼×菅野祐悟×小田実結子×水谷晃 /演奏会プログラムSymphony2月号掲載

座談会 正指揮者 原田慶太楼が選曲した第707回定期演奏会に向け、作曲家・菅野祐悟氏、小田実結子氏を迎え、本公演でコンサートマスターを務める水谷晃と、座談会を行いました。



自然と“作曲家”に


原田:私たちが作曲家と一緒に時間を過ごすことってあまりないので、こういう機会ってすごく貴重だと思っていて。やはり最初に聞きたいのは、“なんで作曲家になったのか”というところで。



菅野:通っていた音楽教室で「曲を作りましょう」ということになり、小学1年生の時に初めて作曲をして、それを披露したら褒めてもらって。そこで、勘違いしたのかなんなのか、そのまま今に至るって感じなんですよ(笑)。



一同:(笑)



原田:小田さんは?



小田:私の音楽のスタートはピアノ。人生としてはピアノ歴と作曲歴が半々くらいなんです。ピアノで一回の本番で成果を出し切ることが叶わず辛い思いをしていた時に、興味を持ったのが作曲でした。小さい頃から、好きな曲を耳コピで弾くのが好きだったので、もしかしたら作る方が向いてるのかなと思い、大学受験前に勉強をはじめてみたんです。初めて自分の曲を、友人が演奏してくれた時はすごく感動して、自分が弾くのとはまた違う喜びを得たことはとてもよく覚えています。



 



建築と音楽と


原田:今回演奏する菅野さんの交響曲第2番は建築がもとになっていて。で、水谷くんは元々建築家になりたかったんですよね。



水谷:そう、僕、建築家を目指してたんです。でも、高校2年生のときに9. 11事件があって。ワールドトレードセンターが崩れていくのを見ながら、僕の建築家の夢も途絶えたんですけどね。それで、菅野さんの交響曲を見た時に、まず目に飛び込んできた『すべては建築である』。これはどういったところからタイトルがつけられたのですか?



菅野:僕は建築を見るのはもともと好きで。教会があるからこそ教会の音楽が、お寺にはお寺の音楽が̶宗教や建築、その建物の響きや、光の入り方と一緒に音楽は育ち、建築・場所・文化とともにカラーが変わっていく。建築と音楽は切っても切り離せないものだなあと思っていて。建築には、1ミリずれたら上手くいかないような、芸術だけではない技術的・数学的な部分があって、そういうものと交響曲はすごく近いなと。ここに休符をいれるかいれないか、ここにスタッカートつけるかつけないか。この楽器をどう組み合わせて、40分間をどう構築していくか。誰に聴いてもらいたくて、どこで演奏してもらいたいか……それらを考えて、演奏家はどんな音を出してくれるんだろう、出来上がったときにどんな世界が広がるんだろうって。建築家と作曲家って似てる部分もあるのかなと思ったときに、建築家の思考回路がその“言葉”にあらわれるのではと思ったんです。建築家の作品も見ながら、インスピレーションの起源にしたっていう感じなんですよね。



原田:建築をコンセプトにしているからこそ、いままでと違う作曲方法で書いてる感じはありますか?それとも、いつも作曲するときのスタイルと同じプロセスがあったり?



菅野:今回でいうと、どの建築家も必ず言っているのが、光をどう扱うかということなんですよね。その「光」をどう音にするかということを考えて書いたので、そういう意味ではほかの作品と変わった部分があると思う。やっぱり建築って、自然があって建築があるわけじゃないですか。そうなると、切っても切り離せない「自然」も同時に感じさせる音楽をつくりたいなと思ったのは、この楽曲独自のものなのかもしれないですね。



 



座談会



劇伴とクラシック音楽


菅野:僕は劇伴を一年間に3~400曲ぐらい作って、それを毎回オーケストラで録音して。だから多分どんな作曲家よりも、実際の音は鳴らしているんですよ。そして、絶対に飽きさせちゃいけないから、どうやってびっくりさせようか、普段はそういうことばかり考えてて……



原田:飽きさせないように、というのは、聴いている方?演奏家側?



菅野:えー、演奏家には頑張ってもらうしかないんで(笑)



原田:聴いている方をメインに、飽きさせないということね。



菅野:はい。あとは、映像を見ている人が飽きないように。普段は「2時間の映画を楽しく見せる」ことをやり続けているので、そういう意味では、今回の40分はもう絶対飽きさせない(笑)



原田:ゲームやテレビの音楽は結構ファストペースじゃない?こういうオーケストラの曲を書くときは、リハーサルも時間に余裕があると思うけど、どういう心境なの?



菅野:劇伴の場合、上手な人が集まって、テイク1テイク2でどんどん進めて、20曲を2時間で録ったりする。その代わり、練習しなきゃ弾けないものは書いちゃダメなんですよ。



原田:初見で弾けるものでなければいけないんだ。



菅野:練習しないと弾けないものを書いたら怒られて「ダメな作曲家だ!」って言われちゃうんですよ。「楽器のことわかってねーな」って(笑)。だけど、オーケストラ作品を書くときはもっと自分の中の幅を広げて「普段書けないけど本当はこんなことやりたい!だから難しいけどごめんね!」みたいな(笑)



原田:(笑)。でも全然ごめんじゃない、私たちから見たら。



水谷:もちろん!そこで新しい音の世界を見てみたいし、僕らはそういう欲求が溢れる方だと思うから。



原田:じゃあ菅野さん的には意外と解放感なのね、オーケストラのために書くのって。



菅野:そうですね。



 



曲作りのモットー


原田:小田さんは、2021年にこども定期の作曲家プロジェクトで選ばれて、そこから今日まで東響のリハーサルや演奏会に来たり、こども定期で初演したり、東響をよく知ってくれているわけで、そのオーケストラへ書くのがこの「Kaleidoscope of Tokyo」。小田さんにとって、自分の作曲家としてのアイデンティティはどういうところにありますか?



小田:いつも曲を作るときには、どの奏者、どの人にも楽しめる瞬間をつくることを意識しています。毎回それが叶うわけではないんですが、例えばテューバ。どうしてもベースラインが多くなりがちですが、パッとスポットが当たる瞬間は作りたいなというのは、いつも思っています。一回全部の奏者の気持ちになってみるんですよね。じゃあ今度はトロンボーンの人の気持ちになって見てみよう、とかってやると、「ええ、すごいつまんないじゃん!」って(笑)。



一同:(笑)



水谷:でもソロを書くと「難しい!」って言われることもありますよね



小田:さじ加減が難しい(笑)



原田:面白いよね。菅野さんは聴いている人がつまらなくならないためって言ってたのに、小田さんは、演奏している方がつまんなくならないようにって(笑)



 



幅広い選択肢から


原田:せっかく先輩作曲家がいるから、何か聞きたいことはある?



小田:菅野さんのことは前から存じていたのですが、認識がとても強まったのは、NHKの番組で『軍師官兵衛』のメインテーマを決める際に、一か月間毎日違うパターンの曲を作って、最終的に3つに絞って選んだという話をされていたとき。私はいつもギリギリのなかでやっと1個を絞り出して「これでなんとかお願いします!」というタイプなので、そこまでの選択肢を出せるということが本当にすごいな、と思って。



菅野:大河ドラマのオープニングって、実力が丸見えになっちゃう、その作曲家のすべてを決定されてしまうような場じゃないですか。絶対にしくじれないと思って。1か月間で作った30の曲のなかで一番いい曲が、いま僕が書ける一番いいものかなと。そのやり方で上から3つ選んで、最終的にNHKの方に選んでもらいました。



水谷:30通りってすごいですよね。それだけ手数があり、良い音楽知っていて、色んなスタイルがあるっていう。正直、僕はテレビも観ないしゲームも全然しないので、今回曲を書いてくださった“作曲家”の方としてしか見てなくて……本当に初対面というか、これまで存じ上げずごめんなさい(笑)



菅野:クラシック音楽業界にずっと興味があったのですが、これまでに商業音楽を4000曲くらい書いてるので、商業音楽家としてあまりにも色がつきすぎていて、それが邪魔するのではないかという、自分の中での言い訳があったんです。だから色眼鏡がないと、逆にホッとします。むしろゼロからお願いします(笑)最初は商業音楽作曲家としてみられる“怖さ”みたいなものがあったのですが、「関係ないよ」と振ってくださる指揮者やオーケストラの方々がいるのは、時代もよかったのかなと。「現代音楽しか音楽じゃない」みたいな時代もあったと思うんです。もしその時代に生まれていたら、僕の作品は定期演

奏会で取り上げてもらえなかったと思うので。時代も、出会いも、運もかなり大きいかなと思いますね。



原田:タイミングってすごくあるなって思う。僕もずっとジョン・ウィリアムズと近いところで十何年間仕事して、彼の音楽に沢山触れてきて、ホルンコンチェルトやテューバコンチェルトは、それだけ聴いたら「映画音楽と同じ人! ?」ってくらい違うけど、今はもう“ジョン・ウィリアムズ”というジャンルになった。10年、15年前のコンテンポラリーミュージックの時代を経て、いまの時代がある。僕もコンテンポラリーな音楽を沢山やってた、やっているけど、最終的に自分がプログラミングするものは聴きやすい音楽にはなっていく気がする。うん、時代だよね。



水谷:演奏家サイドからすると、作曲家といっしょに共同作業ができるっていうのは、本当にワクワクする時間なんですよ。だってベートーヴェンを弾いていて「これでいいのかな」と思っても、天国に行ってからでないと答え合わせは出来ないじゃないですか。だから何とか自分たちを納得させる解釈で弾くんですけど、そこに作曲者がいるというのは、またとない機会で。定期演奏会は、オケのレベルアップのための機会でもありますから、菅野さんも小田さんも、気になったことは何でも言っていただきたいですし、最後は全部慶太楼さんがポジティブにまとめてくれるのではと思っています(笑)



(演奏会プログラムSymphony2023年2月号掲載)



 






 



菅野祐悟

2004年に月9ドラマ「ラストクリスマス」でドラマ音楽デビュー。現在、映画、ドラマ、アニメを中心に活躍中。代表作に、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」、アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 」「名探偵コナン~ハロウィンの花嫁~」、クラシック作品としては、「交響曲第1番」「交響曲第2番」、須川展也氏の為に作曲したサクソフォン協奏曲、宮田大氏の為に作曲したチェロ協奏曲などがある。映画「アマルフィ 女神の報酬」で日本映画批評家大賞「映画音楽アーティスト賞」と日本シアタースタッフ映画際「音楽賞」を受賞。第52回ギャラクシー賞テレビ部門で劇伴作曲家として奨励賞を受賞。



小田実結子

東京都多摩市出身。武蔵野音楽大学作曲学科卒業。同大学院修士課程作曲専攻修了。作曲を野崎勇喜夫、佐藤誠一の各氏に師事。奏楽堂日本歌曲コンクール第24回作曲部門第2位・中田喜直賞・畑中良輔賞受賞。同コンクール第25回作曲部門第2位、第27回入選。米国ミッドウエスト・クリニック主催第1回バーバラ・ビュールマン作曲コンクール中学校バンド向け作品部門第1位。東京交響楽団&サントリーホール主催「こども定期演奏会」20周年記念企画第1回新曲チャレンジ・プロジェクトにて作品採用。「21世紀の吹奏楽」第24回響宴にて作品入選。


 



チラシ



第707回 定期演奏会

2023年2月19日(日)14:00開演(13:15開場)

サントリーホール



指揮=原田慶太楼

ピアノ=アレクサンダー・ガヴリリュク



小田実結子:Kaleidoscope of Tokyo(東京交響楽団委嘱作品/世界初演)

グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 op.16

菅野祐悟:交響曲 第2番“Alles ist Architektur"-すべては建築である



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