第660回定期演奏会 ウド・ツィンマーマン《白いバラ》(演奏会形式)
ソプラノ角田祐子氏インタビュー

これは世界のどの場所でも起こりうる話。作品を通して深く考える機会に
ヒトラー政権に抗った大学生たちの物語を演奏会形式のオペラで

角田祐子 インタビュー
 東京交響楽団が、5月に行う第660回定期演奏会でウド・ツィンマーマンのオペラ『白いバラ』を取り上げる。ナチ体制下のドイツでヒトラー政権に抵抗し処刑された大学生グループ《白バラ》を描くもので、その中心メンバーだった兄妹の役を角田祐子(ソプラノ)とクリスティアン・ミードル(バリトン)が務める。大学院生時代にドイツへ渡って以来、ヨーロッパ各地で経験を積み、16年にはドイツ宮廷歌手の称号を授与された角田にとって、今回の出演は大きな意味を持つようだ。
 「ドイツ人なら知らない人はいない内容で、世界初演以来、政治的に危うい空気が流れると多くの劇場が一斉にこの作品を取り上げ、旋風を巻き起こしてきたようです。ドイツの劇場は今も、二度と過ちを繰り返さないために、国民のために物申すという役割を強く担っています。そして、ドイツで起こったこの話は、世界中どの場所でもありうること。何かに流されるのではなく、自分で考えて行動することがどれだけ大切か、この作品を通して私自身も深く考える機会になっています」
 そんな作品の題材を音楽的に昇華した表現方法にも注目したい。
 「妹のゾフィーが歌うところは歌唱的にとても難しいのですが、これは作曲家が意図した、彼女自身の苦しい気持ちの表れだろうと思います。美しい歌唱に従事するのではなく、少しでも彼女の気持ちに寄り添う表現ができればと思っています。また、オーケストラの演奏する“社会”と、兄妹の歌うとてもリリカルなメロディとの違いから、彼らが社会から孤立させられた、とても孤独な立場にいたのだということが伝わってきます。そこもうまく表現できればいいなと思います」
 兄ハンス役を務めるクリスティアン・ミードルは、偶然にも角田と同じフランスの音楽祭でデビューを飾った歌手。
 「現代物からクラシックまで、幅広く多くの役柄をこなしていて、とても誠実で信頼できる歌手です。古いものから新しいものへの橋渡しができる稀な存在だと思いますので、共演がとても楽しみです」
 角田いわく「すべての方に聴いていただきたい」という本作。聴き手の心を強く揺さぶるに違いない。


取材・文:西本 勲 / Confetti 2018年5月号(4月2日発行)より

角田祐子 インタビュー

プロフィール

角田祐子(かくた・ゆうこ)/ドイツ・シュトゥットガルト在住。兵庫県出身。大阪音楽大学、京都市立芸術大学大学院を経てベルリン芸術大学に入学。2002年、同オペラ科を最高点で卒業し、フランス・エクサンプロヴァンス音楽祭でオペラデビュー。シュトゥットガルト州立歌劇場とソリスト契約を結び、ヨーロッパ、アメリカなど国際的に活躍。2016年10月には、ドイツ連邦共和国よりオペラ歌手の芸術的業績に対して贈られる宮廷歌手の称号を授与された。6月に日生劇場で上演される『魔笛』では夜の女王役を務める(6/17出演)。


▼公演情報


▼連載

① ミュンヒェン「白バラ」事件(文・山下公子/早稲田大学教授)
② ウド・ツィンマーマン(文・中田千穂子/音楽評論家)
③ 白バラが問いかけるもの(文・武井彩佳/学習院女子大学教授)

角田祐子