インタビュー
マルグリート役 ソフィー・コッシュ
Interview with Sophie Koch (Marguerite/Mezzo-soprano)
●ベルリオーズの「ファウストの劫罰」について
―ベルリオーズの「ファウストの劫罰」のマルグリートはよく歌っている役ですか?
コッシュ(以下K):それほど多くは歌っていません。この作品は本来「オペラ」ではないので、舞台で演出するのが難しいのです。演奏会形式では14年前に、フランスの名指揮者ミシェル・プラッソンとスペインのアルハンブラ宮殿で歌ったのが思い出に残っています。夜遅い時間のコンサートで最高の雰囲気でした。
その後、2007年にはドレスデンのゼンパーオーパーにおいて舞台上演で歌い、その時のファウスト役はヴィンソン・コールでした。そして昨年パリのオペラ座で新演出の「ファウストの劫罰」にヨナス・カウフマンと出演しました。本当にすばらしい作品なので、もっと歌う機会があるとよいのですが。
―マルグリートについてはどのような人物像をお持ちですか? K:マルグリートは不思議な役で、本当の人物なのか、あるいはファウストの想像の中にしか存在しない人物なのか、よくわからないところがありますね。もしかしたら移りゆく幻想(phantasmagoria)、あるいは一種の夢なのかもしれません。ファウストとマルグリートは舞台の上では関係を持つことはなく、二人の間には何も起こりません。マルグリートは2曲アリアを歌いますが、一曲目は子守歌のような曲調ですし、二曲目ではもうすでに二人の間柄は終わっているのですから。
―マルグリートはソプラノでもメゾソプラノでも歌われますが、コッシュさんの声域に合った役でしょうか?技巧的に難しい点はありますか? K:マルグリートの役はちょうどソプラノとメゾソプラノの間の声域のために書かれていて、私の声にはぴったりです。ソプラノ歌手もよく歌う役で、歴史的にはたとえばレジーヌ・クレスパンのマルグリートは有名です。マルグリートを歌うには、低い音域を歌えて、なおかつ高音も楽に出せなければなりません。さほど技巧的な役ではありませんが、最初のアリアは登場してすぐに歌わなければならず、しかもとても静謐な歌なので、声をうまくコントロールする必要があります。
―「ファウストの劫罰」はゲーテの原作に基づいていますが、大文豪の言葉を歌うのはいかがですか?
K:もちろん、美しいテキストを歌うことは大きな喜びです。言葉の中にいろんな色彩を見出すことができますし、人物を作り上げる上でも助けになります。
マルグリートの二曲目のアリアは、シューベルトの歌曲「糸を紡ぐグレートヒェン」と同じテキストに基づいており、フランス語訳でも原文にとても近く、ベルリオーズがゲーテの言葉と自分の音楽を融合させようとしていたことがよくわかります。
●久しぶりの来日に期待
―コッシュさんはしばらく来日されてないと思うのですが、前回いらしたのはいつでしょうか?
K:15年前に、ズビン・メータ指揮のバイエルン州立歌劇場の来日公演の時に、東京文化会館で「フィガロの結婚」のケルビーノ役を歌ったのが唯一の来日です。それ以後も、「ばらの騎士」など何度かお話はあったのですが、日程等で実現しませんでした。ですから今回久しぶりに日本を訪れることができるのをたいへん楽しみにしています。日本のオーケストラと共演するのは初めてで、スダーン氏はもちろん存じ上げていますが、舞台でご一緒するのは初めてです。
日本に限らず、私はアジア全般の文化が大好きで、アジアの文化の奥深い美しさ、アジアの人々の生き方にとても魅了されています。私はカンボジアで以前からボランティア活動を続けており、子どもたちの教育や食料の支援活動をしていて、この夏も行きます。
―ちなみに、お名前からコッシュさんはよくドイツ人と間違われることがあるそうですが、ご両親ともフランス人でいらっしゃいますよね? K:はい、ヨーロッパでもよくドイツ人やオーストリア人に間違われますが(笑)、フランス生まれのフランス人です。パリ近郊で生まれ、長いことパリに住んでいましたが、今は家族で南西フランスに住んでいます。
―歌手になったきっかけは? K:7歳でピアノを始め、11歳から学校の合唱団で歌うようになりました。13歳の時に子供のための新作オペラに出演したのが初めてのオペラ体験でした。その後、大学ではジャーナリズムなどを学んだのですが、やはり声楽を学びたいと思い直し、パリ・オペラ座のオペラ・スクールを経て、パリ音楽院で学びました。もともと私はとてもシャイで(笑)、最初からオペラ歌手になろうと思ったわけではないのですが、だんだんと舞台で別の人物を演じる楽しさに目覚めるようになり、オペラの道に進むことになりました。
―コッシュさんは、フランスものからシュトラウスやヴァーグナーまで幅広いタイプの役を歌われています。ご自分の声のタイプについてはどうお考えですか?
K:基本的にはリリックのメゾソプラノですが、ドラマティックな役柄を歌うこともあります。これまでいちばん多く舞台で演じたのは「ばらの騎士」のオクタヴィアン役で、たぶん130回以上歌っていると思います。今年もスカラ座で歌ったばかりです。
フランスものではマスネの「ウェルテル」のシャルロット役、「ミニョン」のタイトルロール、プーランクの「カルメル会修道女の対話」のマリー修道女長などを歌っています。「カルメン」は今まで躊躇していたのですが、来年メトでロール・デビューします。それから今後シカゴとパリでベルリオーズの「トロイアの人々」に初めて取り組みます。シカゴではディド役を、2年後のパリのオペラ座(バスティーユ)の創設30周年の記念公演では、カッサンドラ役を歌います。
ヴァーグナーのオペラは7〜8年前から歌ってきました。「トリスタンとイゾルデ」のブランゲーネ、「リング」のフリッカとヴァルトラウテ、「タンホイザー」のヴェヌスなどを歌っています。クンドリーもオファーはあったのですが、まだ早いと思ったので今のところお断りしていますが、いつか歌う機会があるかもしれません。
―もっとも影響を受けた歌手はどなたですか? K:さまざまな歌手から影響を受けていて、とても全部は挙げられませんが、もっとも影響を受けたのはクリスタ・ルートヴィヒで、彼女には本当に感謝しています。私が最初に声楽を本格的に学び始めたころに、私の才能を信じて励ましてくれました。そのほかにもセナ・ユリナッチやグンドラ・ヤノヴィッツらからも多大な影響を受けました。
取材/文=後藤菜穂子
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