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シベリウス・アカデミーから羽ばたいた指揮者たち|4月定期、川崎定期

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2024.4.16

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奥田佳道(音楽評論家)

一昨年と昨年、今をときめくフィンランドの指揮者クラウス・マケラ(1996年生まれ)にバックステージで話を聞いた。
「どうしてフィンランドばかりから指揮者が出てくるのか」「シベリウス・アカデミー※の指揮科には何かマジックがあるのか」「チェロを弾く時間はあるのか」
本稿を予告・予想したかのような質問をしていたのだった。

※シベリウス・アカデミー:フィンランド国立シベリウス芸術大学アカデミー、通称SibA。指揮課程はオーケストラ、合唱、教会音楽など全6コース。卒業試験がプロ・オーケストラの定期や歌劇場でのオペラという年も多い。

 

マケラ語録をご紹介したい。

 

クラウス・マケラ
クラウス・マケラ

「シベリウス・アカデミーの指揮科に、特にマジックはないと思います(笑)。でも、アカデミーのジュニアコースに入るにせよ、限られた期間マスターコースで学ぶにせよ、オーケストラの楽器をプロフェッショナルな水準で演奏出来なければ、先生や学生と活動をともにすることは出来ません。この仕組みは、指揮者コンクールやヨーロッパの音楽マネジメント、メディアとコンタクト出来たヨルマ・パヌラ教授が創ったと聞いています。僕は12歳でシベリウス・アカデミーのジュニアコースに入り、パヌラ教授のもとで指揮を学び、数年後にはプロのオーケストラを指揮しています。チェロのレッスンやコンクールと平行しての日々でした」

 

オスモ・ヴァンスカ
オスモ・ヴァンスカ

シベリウス・アカデミーから羽ばたいた指揮者が、みな管弦楽器のスペシャリストだったことはよく知られている。

来月(2024年4月)客演するサカリ・オラモはフィンランド放送交響楽団のコンサートマスター。2025年3月の定期を任されたオスモ・ヴァンスカはヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の名クラリネット奏者だった。ちなみにマケラはコンクール受賞歴もあるチェリスト。

そして彼らを高みに導いたのが、名伯楽ヨルマ・パヌラだ。もっともヴァンスカ曰く「先生は過大評価、優秀だったのは選抜された若手」となるのだが…。いずれにせよ、シベリウス・アカデミーでヨルマ・パヌラに師事という一文をあちこちで見か
ける。彼の推薦で檜舞台に名乗りを挙げた人材ばかりだ。

ヨルマ・パヌラ、フィンランド国立シベリウス芸術大学アカデミーのオーケストラ指揮科元教授。指揮者、作曲家、編曲家。オルガン、作曲を学び、1950年シベリウス・アカデミー教会音楽オルガン科卒業、1953年シベリウス・アカデミー指揮科卒業。フィンランド各地の歌劇場、オーケストラに客演。1968年、ヘルシンキ・フィル初のアメリカツアーを指揮した。1973年から1993年までシベリウス・アカデミー指揮科教授。現在に至るまで欧米、アジアで指揮者養成のマスタークラスを開催。国際指揮者コンクールの審査員歴も多い。

パヌラの後任として2013年までシベリウス・アカデミー指揮科教授に迎えられた巨漢の名匠レイフ・セーゲルスタム(1944~)によれば、パヌラの正規クラスに入学出来たのは、100名を優に超えていたという応募者から3名程度。いっぽうパヌラは個人の立場でマスタークラスやジュニアの指導も頻繁に行っていた。実はこのマスタークラスや個人レッスンから羽ばたいた指揮者が多いとのこと。
で、彼のレッスンの特徴はといえば「何もしない」(セーゲルスタム談)。

敏腕プロデューサーでもあったパヌラはレッスン毎にプロの演奏家や学生を交えた「スペシャル・オーケストラ」を整え、若手にひたすら指揮をさせたという。課題は年に何と60曲。指揮台に立った若者の力量に問題があろうと、オーケストラに何か「事件」が発生しようと、パヌラは静観。レッスン後に学生、パヌラ、オーケストラ有志、他学科の教授、リサーチャー、聴講生によるディスカッションが始まる。ビデオが使えるようになってからは、演奏後に映像を視聴。何がよくて、何が問題だったかを具体的に語らせ、語り合い、次のレッスンに生かす─私もこの実践的な音楽の時間を共有、継承しましたよ、とセーゲルスタムは語る。

「私の好きな言葉は、優れた若者が現れたならば、年配者は喜んで彼の翼に風を送り、その人をさらに大きく羽ばたかせよう、です。これは古き良き時代のフィンランドの格言のひとつで、シベリウス・アカデミー指揮科のモットーでもあります。フィンランドの若い指揮者たち、みんな素晴らしい。みんなライバルです。年寄りの私だって負けてなんていられません。でもね、みんな違って、いいでしょう」

ちなみに、余談というにはスケールが大きすぎる話なのだが、セーゲルスタムはフィンランドを代表する作曲家でもあり、昨年オンラインで伺ったところ、交響曲第374番の完成が近いと語っていた。先日80歳の誕生日を祝い、交響曲第371番がお披露目されたというから驚く。

「私の交響曲は皮肉でも洒落でもなく、指揮者なしで演奏されます。私はどうするかって? オーケストラのなかでピアノを弾きます。上手いものですよ。60年前、私はジュリアード音楽院のオーケストラでズッカーマンと並んでヴァイオリンを弾いていたのです。オーケストラで弾くのも好きなのです」

脱線が過ぎたが、セーゲルスタムの言葉に愛すべきフィンランド人指揮者の気質が見え隠れしないだろうか。スオミ(フィンランド)の指揮者の鮮やかな職人技、実践力、熱き音楽観に世界のオーケストラ、聴き手が喝采を贈っている。

 

サカリ・オラモ
サカリ・オラモ

サカリ・オラモ58歳の働き盛り。満を持して東京交響楽団にデビューを飾る。ラウタヴァーラ、サーリアホ、シベリウスの秘曲、そしてドヴォルザークの名曲への期待は、まさに限りない。もうすぐひんやりとした情趣、ボヘミアの調べに抱かれる。

 

チラシ

第719回 定期演奏会
2024年4月20日(土)18:00開演(17:30開場)
サントリーホール

川崎定期演奏会 第94回
2024年4月21日(日)14:00開演(13:30開場)
ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮=サカリ・オラモ
ソプラノ=アヌ・コムシ

ラウタヴァーラ: カントゥス・アルクティクス (鳥とオーケストラのための協奏曲)
サーリアホ:サーリコスキ歌曲集(管弦楽版)<日本初演>
シベリウス:交響詩「ルオンノタル」
ドヴォルザーク:交響曲 第8番

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