チェロ:エリック=マリア・クテュリエ インタビュー【2】|東京オペラシティシリーズ第109回 特集

エリック

なぜ私はヤン・ロビンの音楽が好きなのか考えてみました。彼が自分の感性を貫いているという、その態度が好きなのだと思います。またそれは、あらゆる偉大なアーティストが、自分の内に必然的に持っている姿勢なのかもしれません。ものづくりに対して世間は、称賛する人たち、批判する人たち、そしてニュートラルな反応をする人たちに分かれるものですが、彼はまず自分の耳ありきで曲作りをしています。アメリカの作曲家、エリオット・カーターの言葉を思い出します。「他人に気に入られる音楽をつくるのをやめたときに成功が訪れた」というものです。

ヤン・ロビンはよく、自分に近いと感じるソリストたちのために曲作りをします。アラン・ビラール(クラリネット)にはArt of Metal、タナ弦楽四重奏団にはShadows III、そして私にはQuarksを書いてくれました。
Quarksは三部作の一作目です。2016年10月にリールで初演された本作が、チェロとオーケストラのためのQuarks。2017年夏にコルド・シュル・シエルで初演された、チェロ と音響インスタレーションによるDraft IVが二作目です。そしてチェロとアンサンブルのためのQuarks IIが三作目にあたり、この作品は2020年4月にジュネーブで世界初演を予定されています。

Quarkとは最小の粒子を指しているので、このタイトルから作曲家と奏者が挑戦しなくてはならないテーマが垣間見えてくるかと思います。ヤン・ロビンは、自分の想像する音の世界とソリストの技術がぴったりと寄りそうように作品づくりをします。作曲の過程でやり取りがあり、音楽言語の限界をつねに取り除いていこうとするのです。彼は、ソリストとの職人的といえるほどの共同作業を重視するのです。この曲に関しては、「大地から発せられる音」という素材を一緒に探究しました。それは力強いもので、アコースティックの楽器からは聞こえてこないような音。超音波のようでもあり、低音が高音を導き出すような音です。闇が光を引き立たせるように、また、陰なしでは存在し得ない物体に光があたって認識されるという感覚です。

YannRobin
ヤン・ロビン (c)Jean Radel

私たちはQuarkという粒子と常に接しているにもかかわらず、それを目で認識することができません。同様に、私たちを包み込むその音を、私たちは具体的に形容することができません。それでも重低音は長い波長をもっており、私たちは身体的に感じることができます。私たちは日常的にあらゆる音と接しています。目は一定の範囲、限られた視界のものしか見ません。画像にしたとき、二次元となります。しかし音は三次元で認識できます。

奏でる音の波長にこだわると、ある周波数まで意図的に出せるようになります。その重低音部において、物質的なコンタクトが存在します。つまりインパクト、共鳴のようなものを生み出すことができるのです。音の響きのなかに、さらに音の響きを作り出すような感覚です。
こういった現象を生むことに、ヤン・ロビンと私は夢中になってしまうのです。20世紀終わりから21世紀にかけての機械の文化とも繋がるからでしょうか。この曲を弾くと、人間の想像の先に自分の身をおいて同化するような、あるいはそれを超えた先を行くような、一種の陶酔の境地に至ります。遠くからみると金属のような光を放っている、影や霧の風景に入り込んだかのように。モノクロの絵画のなかに、かぎりない色彩のニュアンスをみつけたときのように。

この楽曲をジョナサン・ノットの指揮で演奏できることを心から嬉しく思います。彼は、力強さと流動性を見事に使い分けることが出来る指揮者だからです。

プロフィール
エリック=マリア・クテュリエ / ピエール・ブーレーズの創設したアンサンブル・アンテルコンタンポランのソリストとして欧州最高峰に位置する演奏家の一人。パリ国立高等音楽院(CNSM)でロラン・ピドゥそしてクリスチャン・イヴァルディの元でチェロおよび室内楽を学んだ後、パリ管弦楽団に入団。ボルドー国立管弦楽団のプリンシパル・ソロを経て、2002年にブーレーズにその才能を見出された。どんな難解な曲も弾きこなすダイナミックな技術と、深く繊細な音楽性で古典から現代曲まで幅広く才能を発揮し、ショルティ、ジュリーニ、サヴァリッシュ、マゼールといった名だたる指揮者と共演してきた。現在、ソリストの活動と並行し、CNSMの助教授として後進の育成にも力を注ぐ。またトリオ・タルヴェグのメンバーとしても新譜を発表し、ジャズや電子音楽の分野での演奏も注目されている。


公演情報

  • 東京オペラシティシリーズ 第109回
    2019年5月18日(土)2:00p.m.
    東京オペラシティコンサートホール

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