インタビュー
メフィストフェレス役 ミハイル・ペトレンコ
Interview with Mikhail Petrenko (Méphistophélès/Bass)●今回、東京でメフィストフェレス・デビュー! ―「ファウストの劫罰」のメフィストフェレス役をこれまでに歌ったことがありますか? ペトレンコ(以下P):いえ、今回日本で初めて歌います。もちろん、よく知っている作品ですし、これまでベルリオーズのオペラは何作品も歌っているので、彼の作風には親しんできました。「ロメオとジュリエット」のローレンス神父、「ベンヴェヌート・チェリーニ」の法王、「トロイアの人々」のナーバル役などです。
―ベルリオーズのオペラは歌うのに技術的に難しいですか? P:そんなことはないです。もちろんベルリオーズの音楽語法はとても特徴的です。たしかに暗譜をする時はグノーの「ファウスト」より難しいかもしれませんね。でもそれは役を勉強している時だけで、音楽を覚えてしまえば歌うのは大きな喜びです。
—実はメフィストフェレスのほうが「ファウストの劫罰」の主役だという見方もありますが、いかがですか? P:うーむ、どうでしょうね。それを言うなら、ベルリオーズの作品だけではなく原作もそうだと言えるのではないでしょうか。そもそもファウストのキャラクターをおもしろく作るのが難しいのだと思います。メフィストフェレス役のほうがおもしろく、キャラクターが立つので歌いがいがあるということでしょう。
―ベルリオーズもかなり悪魔的な性格の持ち主だったのではないかと思いますが、この役にはそうした彼の性格が反映されていると思いますか? P:いや、ベルリオーズに限らず、むしろ人間誰しも、心の中にファウスト、メフィストフェレス、神、マルグリートのそれぞれのキャラクターの面を少しずつ持っているのではないでしょうか。この作品の意味はそこにあると思います。
―作品の中で特に好きな箇所はありますか? P:この作品は全体としてバランスがよく、きわめて完成度が高いので、特定のセクションだけ選ぶことはできません。一つの作品としてすばらしいのです。
―ペトレンコさんはグノーの「ファウスト」のメフィストフェレス役も歌っていらっしゃいますが、どんな違いがありますか? P:二つの「ファウスト」は、同じ題材を扱った別の画家による絵画のようなものです。比較することはできません。どちらが好きかは、聴く人の好みやその日の気分などによって異なるでしょう。
●オペラのレパートリーは70作品 —ペトレンコさんは、バス歌手として並外れてレパートリーが広いですね。モーツァルト、ロッシーニ、ヴェルディ、ヴァーグナー、フランスもの、ロシアものなど。どうバランスを取って歌っていらっしゃるのでしょうか? P:現在の私のレパートリーはおよそ70作品です。もちろん、毎シーズンこれだけ歌うわけではありませんが。こういった多様な役を歌うことができてとても嬉しいです。私自身は、一つのレパートリーを集中して歌うより、いろいろ歌うほうが楽しいのです。
―フランス語のオペラもよく歌っていらっしゃいますが、フランス語で歌う難しさはありますか? P:最初の頃はいくらか苦労しましたが、今では完璧ではないけれどフランス語を話しますし、フランス語で歌うのはとても好きです。
―今シーズン、新しく取り組む役はありますか? P:今シーズンは、この「ファウストの劫罰」とヴェルディの「ナブッコ」のザッカリアの2つだけだったと思います。
●歌手を目指したのは17歳の時 ―ペトレンコさんのお母様は音楽家でいらっしゃるそうですね。 P:ええ、母はピアノとオルガンの教師です。
―声楽を始めたきっかけは? P:偶然だったんです。私自身はピアノが嫌で、子供の頃はパーカッションをやっていたのですが、そのうちやめてしまい、しばらく音楽から遠ざかっていました。でもまた音楽に戻りたいと思って、17歳の時に偶然、歌を始めてみたらなぜかわからないけれどもとてもしっくりきたんです。それで歌手になろうと思って、サンクトペテルブルクの音楽院に入学しました。
―最初からオペラ歌手になろうと思ったのですか? P:子供の頃はオペラを観たことはほとんどなくて知らなかったのですが、歌手の勉強を始めてからはすぐにオペラに興味を持つようになりました。
―音楽院を卒業後、すぐにマリインスキー劇場の研修生になられたそうですね。 P:はい、私が卒業した年に、マリインスキー劇場アカデミーが創設され、私は運よくその第一期生として選ばれました。でも実際には、研修生の頃からすでにマリインスキー劇場の本公演に小さい役でしたが出ていました。
―若い頃はもっと声が低かったそうですね。 P:そうです。今はその頃にくらべて高くなりました。それは自然にそうなったのであって、特に変えようとしたわけではありません。
―ペトレンコさんはよく日本にいらしてくださっていますね。 P:もう10回以上日本を訪れています。ほとんどがマリインスキー歌劇場の来日公演ですが。初めて訪れたのは2002年、マリインスキーの「ドン・ジョヴァンニ」でマゼット役を歌いました。それから「戦争と平和」(2003年)、「ニーベルングの指輪」ツィクルス(2006年)なども特に記憶に残っています。実は妻[*奥様はバレエ・ダンサー]と初めてデートをしたのは東京だったんです。すでに出会っていたのですが、付き合い始めたのが東京でした−−その時私が何を歌っていたのかは思い出せませんが。その意味でも東京は特別な場所です。
取材/文=後藤菜穂子
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